歯の解剖学が歯科技工士の根本であるという事は、デジタル化が進んだ今も変わりがありません。
いえ、むしろ現在こそ、その重要さが増してきています。
私が学生だった頃の解剖学の教科書は、藤田恒太郎の「歯の解剖学」でした。この本は歯の形をことごとく記述して言語化してあるという点で、全くの素人であった私たちへの教育と、やはり言葉で問われる国家試験のための教科書として、非常に合致していると思います。
ところが理解が進んで我々の仕事で必要とされるところの「歯らしさ」が議論に上がってくるようになると、図版が少ないなどの点で多少の不満がありました。
この歯の解剖学を補完する関係にあったのが上条雍彦の「日本人永久歯解剖学」です。
この本は歯の形を統計的に処理した、よりマニアックな内容で、全くの初級者には不向きな教科書と思います。
しかし葉からの歯の成り立ちが説明してあって、さらに紙面に写真を多く取り入れてあるなど、感覚的な歯の形の理解に有利でした。
また「遠心退化」の法則など、今でも日常的に使える概念が多く記されています。
この二つの本はどちらが優れるかというよりも、二つ手元にあって初めて、異なる光源で形が浮かび上がるように歯の形が理解できるものと思っています。
解剖学に悶えていた頃の私に、そんならこんな本があるぞと示唆して下さったのが恩師の末永和弘先生でした。
そしてこの理解の助けになったのが先生がお持ちだった膨大な数の天然歯のコレクションです。
当時はこれらの天然歯が持つ圧倒的な迫力、そしてフォルムの美しさに魅了され、解剖学の面白さに没頭したことを思い出します。
Photography of Natural Teeth 01
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